破産手続きを選択した場合、まず、受任通知という通知書を全債権者へ発送することになります。この「受任通知」とは、弁護士や司法書士が債権者へ介入したことを知らせる重要な書類です。また、「債権者」とは、金融機関、保証協会、信販会社、消費者金融等の業者に加えて未払いの買掛金がある仕入先・取引先等をすべて含みます。
この記事では、「受任通知」の役割や重要性と、この「受任通知」が発送された後の流れについて詳しく解説します。
受任通知とは?その役割と重要性
受任通知は、債務整理や破産手続きにおいて重要な役割を果たす法的文書です。債務者が弁護士や司法書士などの専門家に債務整理を依頼した際、その専門家が債権者に対して送付する通知のことを指します。この通知には、債務者の代理人として専門家が選任されたことが明記されています。また、以後の交渉や手続きは代理人を通じて行うよう要請されます。
受任通知の主な目的は、債権者による直接的な取り立てを停止させ、債務者を保護することにあります。これにより、債務者は精神的な負担から解放され、専門家のサポートを受けながら適切な債務整理の方法を検討する時間を得ることができます。また、受任通知は債権者に対して債務整理の意思を正式に伝える役割も果たし、債務整理プロセスの公平性と透明性を確保する上で重要な機能を持っています。
受任通知の概要
受任通知は、債務者が弁護士や司法書士などの専門家に、債務整理を依頼したことを債権者に通知する文書です。この通知は、債権者と債務者の関係において重要な転換点となります。特に貸金業者や債権回収会社に対しては、貸金業法やサービサー法(正式名称:債権管理回収業に関する特別措置法)に基づき、受任通知が届いた時点から債務整理が終わるまでの間、債務者への直接の取り立てや返済請求が法律上禁止されます。
受任通知の主な目的は、債務者の権利を保護し、専門家が債務整理を円滑に進められるようにすることです。クレジットカードを利用した借入があり、さらに滞納があった場合、一定の期間が経過すると督促に悩み、給料の差押えへの不安を感じることもあるかもしれません。この「受任通知」を送付するメリットは、債権者に対し、今後の交渉や連絡は全て依頼を受けた専門家を通じて行うように求める内容が含まれることです。これにより、債務者は直接的な取り立てや、債権回収を目的とした差し押さえのプレッシャーから解放され、冷静に債務整理の方針を検討できるようになります。
法的には、貸金業者や債権回収会社など特定の債権者に対し、受任通知が「直接の取立て禁止」という強い効果を持ちます。これらの債権者が受任通知を無視し、回収を目的として直接債務者に接触した場合、貸金業法等に基づく罰則の対象となることがあります。一方、銀行や信用金庫、個人債権者など貸金業法等の適用を受けない債権者については、受任通知に法的な取立て停止効果はありませんが、実務上は多くの場合、督促等を控える傾向があります。
受任通知は、債務整理の初期段階で重要な役割を果たし、債務者と債権者の関係を整理する基盤となります。債務者にとっては心理的な負担軽減にもつながり、専門家の助言を得ながら最適な債務整理の方法を選択する時間的余裕を生み出す効果があります。
受任通知に記載されている内容
自己破産を申し立てる際、弁護士が受任通知を債権者に送付します。受任通知は、破産手続きの開始を正式に通知するもので、債務整理の第一歩として非常に重要な役割を果たします。
受任通知に記載されている内容
1.依頼者の氏名・住所
受任通知には、破産手続きを依頼した本人(債務者)の氏名や住所が記載されます。これにより、債権者は、誰が破産手続きを行っているのかを確認することができます。
2.弁護士の情報
受任通知には、依頼を受けた弁護士の名前、事務所名、連絡先も記載されます。債権者は、この弁護士と連絡を取ることになります。
3.受任の事実
破産手続きを進めるため、弁護士が正式に依頼を受けていることが記載され、債務者の代理人として手続きが進められることが伝えられます。
4.今後の対応について
受任通知には、債務者の代わりに弁護士が交渉を行い、債権者への対応を一任する旨が記載されます。これにより、債権者は直接債務者と連絡を取ることなく、弁護士を通じて対応することになります。
5.督促の停止
受任通知が送付されると、債権者は債務者に対する催促や取り立て行為を停止する義務があります。これにより、債務者は精神的な負担を軽減し、安心して手続きを進めることができます。
受任通知は、自己破産手続きの中で、債権者に対して破産手続きが進行中であることを公式に伝えるための重要な書類です。通知に記載された内容は、債務者の代理人が弁護士であることを明確にし、今後の取り立てを停止させるための大切な手続きとなります。
破産選択時の流れ
破産手続は、借金が返済できない場合に、財産を換金することで相殺し、法的に借金を整理するための手段です。手続きを進める際には、弁護士と共に流れをしっかりと理解し、慎重に進めることが大切です。不安な点があれば、早めに専門家に相談し、最適な解決策を選んでいくことが重要です。
破産選択時の流れ01|受任通知は速やかな初動対応が重要
受任通知には、法人や代表者が破産手続きに入ったこと(個人事業主の場合も同様)、弁護士が依頼を受けたこと、そして電話や郵便での連絡先を法律事務所に変更し、依頼者本人への直接の連絡を停止する旨を明記する必要があります。
破産手続きを選択した際には、迅速な初動対応が非常に重要です。受任通知を間違いなく、迅速に債権者に届けるためには、債権者名や住所など、債権者リストを正確に作成していただく必要があります。
また、受任通知の発送と同時に「債権調査」を行います。各債権者に対して、現在の債務額を知らせてもらうよう協力をお願いし、その返答を待つことになります。
破産選択時の流れ02|従業員の解雇の手続き
破産手続きが進行する際、従業員の解雇の手続きは、重要な手続きの一部です。法人が破産を選択する場合、その後の事業の継続が不可能となることが多いため、従業員の解雇や退職手続きが必要になります。遅くとも、受任通知発送のタイミングで従業員がいるようであれば、解雇の手続きを行うことになります。
解雇は、労働基準法に基づいた適切な手続きを踏むことが求められます。解雇を行う前に、従業員には解雇予告を行うか、予告手当を支払う必要があります。通常、解雇予告は30日前に通知しなければなりませんが、破産の場合は即時解雇となることが多いため、予告手当を支払うことが一般的です。
また、解雇にあたっては、その理由を明確にすることが重要です。従業員には、破産手続きに伴い事業が継続できないための解雇であることを説明し、適切な手続きを行うことが求められます。
解雇された従業員には、未払いの給与や退職金があれば、それも支払う必要があります。破産手続きが進行する中で、従業員の生活への影響も考慮し、これらの支払いは優先的に処理されるべき事項です。従業員解雇時、未払いの賃金がある場合で、法人、ないし事業主において現金として扱える預金があれば、労働債権として支払いを行っても問題がありません。従業員解雇後は、労働基準監督署に所定の手続きを報告する必要があります。また、雇用保険の手続きも行う必要があり、注意が必要です。
解雇の手続きは、口頭だけではなく、「解雇通知書」という文書で行うことが望ましいです。解雇通知書のひな型については、当事務所でご準備させて頂きます。
破産選択時の流れ03|事務所の明渡し
法人や企業が破産を選択した場合、事務所や店舗、その他の事業用物件をどのように扱うかを考える必要があります。受任通知発送後、事務所、営業所、倉庫、駐車場等、不動産を賃借している場合、速やかに不動産を明渡す必要があります。そのため、不動産のオーナー、ないし管理会社へ、破産手続きへ入ったことを連絡し、明渡しの準備を進める必要があります。
事務所の明渡しは、借地契約や賃貸契約に基づいて行われます。破産手続き開始後、事務所や店舗などの賃貸物件は「破産管財人」が管理権限を取得します。破産管財人は、賃貸契約の継続か解除を判断し、解除する場合は物件の明渡しを執行します。事務所の明渡し作業が行われ、法人が所有していた物品や設備が整理されます。
明渡しの際、原状回復工事等が必要な場合、賃借人である法人、ないし個人事業主の費用負担で明渡しを進める必要があります。不動産の明渡しにおいて、原状回復が容易であるケース、事前にある程度話がまとまっているケースなどは大きな問題になりませんが、中規模・大規模な工事を伴う場合、オーナーないし管理会社との交渉を重ねていくことになります。
物件が法人所有の場合、破産管財人が競売や随意契約で売却し、売却益を債権者へ分配します。破産管財人の判断によっては、事業用物件を暫定的に使用しつつ清算作業が進められる場合もあります。
破産選択時の流れ04|リース物件等の返却
破産選択時の流れ05|裁判所への申立て
その後、債権調査がある程度進んだ段階で打合せを行い、資料を提出して頂き、破産申立書を完成させ、裁判所へ申立てを行うことになります。この段階で、破産手続きの正式な開始が決まるため、正確な書類の準備と提出が求められます。債務の一覧、収入・支出の明細、資産の状況を記載した書類や、本人確認書類(例えば、住民票や運転免許証)など、必要な書類を準備して弁護士に提出することになります。
次に、破産申立書を裁判所に提出します。破産申立書には、申立てをする理由や債務の詳細、破産手続きを希望する旨を記載します。
弁護士介入から、破産申立てまでの期間は、特に問題がなければ3ヶ月あれば十分に申立てができております。
破産選択時の流れ06|破産手続き開始決定
破産手続き開始決定は、破産者が申立てを行い、その内容が適法であると認められた場合に裁判所から下される決定です。申立後、裁判所から「破産管財人」という別の弁護士が選任され、破産手続きの開始決定が出ることになります。
破産管財人とは、破産手続きにおいて法人、代表者、ないし個人事業主の財産を管理し、換価(現金化)して配当を行うことが主たる業務である弁護士になります。破産者の財産は、破産手続き開始決定と同時に破産管財人の管理下に置かれます。銀行口座についても管理下に置かれるため、原則として口座が凍結されます。破産管財人が選任されると、破産管財人と面談を行い、破産申立てに至った事情や財産の状況等について、詳細な調査が行われることになります。
破産手続開始決定により、破産管財人が選任され、債権者との調整が進むため、手続きが本格的に始まります。
破産選択時の流れ07|第一回債権者集会
破産手続き開始決定から約3ヶ月後に、第一回債権者集会が開かれることになります。
債権者集会とは、裁判所から債権者へ、破産の情報を開示する機会を設ける集会です。
ただ通常、債権者集会に出頭する債権者はきわめて少数であり、ほとんどのケースで債権者の出頭がなく、簡単に集会が終わっているのが実情です。
債権者集会の主な目的
1.破産者の財産の調査
破産者が所有している財産や資産について、破産管財人が報告し、債権者がその内容を確認します。
2.債権の確認
債権者が自分の債権(借金)の額や内容を申告し、確認します。債権者名簿が作成され、どの債権者がどの程度の債権を持っているかが明確になります。
3.破産手続きの進行状況の報告
破産管財人が手続きの進行状況や今後の見通しを債権者に伝え、必要な情報が共有されます。
破産管財人選任から債権者集会までの間、破産管財人において財産の管理、換価を行うことになりますが、特に財産がなければ第一回の債権者集会で破産手続きが終了しているケースが大半です。
続行するのは、換価に時間のかかる不動産があるようなケースです。債権者集会を続行する場合、同様に3ヶ月に一度のペースで集会期日が設けられることになります。
破産選択時の流れ08|破産手続き終了
上記の手続きを経て、配当に回す財産があれば配当を行い、特になければ配当なしということで破産手続きが終了することになります。破産手続きの最終段階では、破産管財人が法人の財産をすべて処理し、債権者への分配が行われます。これが完了すると、法的に正式に破産手続きが終了します。
また、法人の代表者、及び個人事業主の場合、破産の判断に加えて、「免責」という、債務の支払義務の免除をしてもらう判断が行われます。免責の判断も通常、破産の判断と併せて行われます。
法人の場合、破産の手続きが終了すると、法人自体の解散と清算が完了したことを意味します。
まとめ
「受任通知(じゅにんつうち)」とは、私たち弁護士が、ご依頼者様から特定の問題解決(例えば、借金問題、離婚問題、相続・交通事故など)について正式に依頼を受け、その代理人となったことを、関係する相手方(例えば、貸金業者、交渉相手、他の相続人など)に対して正式に知らせるための書面のことです。
簡単に言うと、「この件については、これからはご本人ではなく、代理人である弁護士が窓口になりますので、今後の連絡は全て私(弁護士)宛にお願いします」というお知らせです。
この通知を送る主な目的は以下の通りです。
1.弁護士介入の明確化
弁護士が正式に代理人として就任したことを相手方に明確に伝え、法的な手続が開始される可能性があることを示します。
2.ご本人への直接連絡の停止
特に借金問題(債務整理)の場合、貸金業法という法律により、弁護士が受任通知を送付した後は、当該の貸金業者は正当な理由なくご依頼者様本人に直接連絡したり、取り立てを行ったりすることが禁止されます。これにより、ご依頼者様の精神的な負担を軽減することができます。
3.交渉窓口の一本化
今後の交渉や連絡は、すべて代理人である弁護士を通して行うことになります。これにより、冷静かつ法的な観点に基づいた話し合いを進めることが可能になります。
4.手続開始の合図
債務整理であれば取引履歴の開示請求、その他の問題であれば具体的な要求や交渉の開始など、問題解決に向けた具体的な手続きの第一歩となることが多いです。
受任通知の重要性は以下の点にあります。
・債権者からの直接的な取り立てや催促を停止させる(法的効力があるため、債権者は弁護士に対してのみ対応することになります)。
・破産手続きを進めるために、債権者に対して法的に正当な手続きを開始したことを示すことができます。
法人破産の選択時の流れ
法人破産を選択する際の流れは、以下の通りです。
1.弁護士に相談
法人が破産を選ぶ前に、まず弁護士に相談します。この段階で、法人の財務状況や負債の額、債権者との関係などを確認します。
2.受任通知の送付
弁護士が法人の代理人となり、債権者に受任通知を送付します。この通知によって、債権者は弁護士を通じて破産手続きが進められることを認識し、直接的な取り立てを行うことができなくなります。
3.破産申立ての準備
受任通知が送付された後、弁護士は破産手続きを進める準備を行います。これには、法人の財産や債務の詳細な調査が含まれます。
4.裁判所への申立て
破産申立てを行うために、必要な書類を裁判所に提出します。裁判所が破産手続きの開始を認めれば、正式に法人破産が成立します。
5.破産手続の進行
破産が認められると、破産管財人が選任され、法人の財産の管理や清算が行われます。この過程で、債権者に対する支払い計画が立てられ、最終的な清算が進んでいきます。
法人または事業主の破産を進める際に、受任通知は初期の段階で非常に重要な役割を果たします。この通知によって、債権者からの直接的な取り立てを防ぎ、弁護士が正式に手続きを進めることができます。基本的に法人や事業主が破産手続きを行う場合、個人での任意整理や個人再生の手続きとは異なり、複雑な要素が関連しています。破産手続きの流れをスムーズに進めるためには、信頼できる弁護士に早期に相談し、適切な対策を取ることが大切です。川端総合法律事務所では、事業主や法人の破産事件を専門とし、電話やメールでのご相談を無料で受付しています。事業が不能に陥っている場合や、倒産の恐れがあるなら、お気軽にご相談ください。